<保護者会アンケート>
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参考資料1
第7章 中学三年・高校一年で取り組むべき教科別戦略
― 「助走期間」の過ごし方が高校二年生以降を決める ―
中学三年生から高校一年生は、大学受験に向けた本格的な演習を始める時期ではない。この時期に最も重要なのは、高校二年生以降に大きく学力を伸ばすための「土台」を築くことである。
教科にはそれぞれ異なる特性があり、同じ学習法がすべての教科に通用するわけではない。特に高校課程では、数学と英語は学習内容が段階的かつ急速に高度化する教科であり、一度理解が不十分になると、その後の学習にも影響が及びやすい。一方、国語は短期間で劇的に向上する教科ではなく、読書経験や思考経験の積み重ねによって少しずつ育まれる能力である。したがって、この時期には教科ごとの特性を理解し、それぞれに適した学習方法を選択することが重要となる。
(1)国語 ― 長期的な人間形成によって伸びる教科 ―
国語は、最も短期間では成果が現れにくい教科である。読解力や論理的思考力、語彙力は、数か月の学習によって急激に伸びるものではなく、幼少期からの読書習慣や家庭での会話、多様な経験を通して長い時間をかけて形成される。
そのため、中学三年生・高校一年生で重要なのは、問題演習の量を増やすことではない。読書量を増やし、自分の考えを文章として表現する機会を持ち、自分とは異なる価値観を持つ人々と積極的に対話することである。読書は語彙力と読解力を育て、論述は論理的思考力を鍛え、対話は多面的な視点を養う。国語力とは、日本語の知識ではなく、「考える力」と「伝える力」の総合的な能力なのである。
(2)数学 ― 「先取り学習」が最も効果を発揮する教科 ―
数学は、高校課程に入ると急速に抽象度が高まり、学習内容が積み重ね型となる教科である。数学Ⅰの理解が数学Ⅱにつながり、数学Ⅱが数学Ⅲや数学B・Cの理解を支える。一つの単元で理解が不十分になると、その後の単元でも理解が難しくなるため、早い段階で基礎を確実に固めることが重要である。
この時期に最も効果的なのが、教科書レベルを中心とした先取り学習である。ただし、先取りとは難問へ挑戦することではない。基本事項を理解し、典型問題を確実に解けるようにすることが目的である。
理想的なのは、学校の授業が「初めて学ぶ時間」ではなく、「三回目の学習」となることである。一回目は自分で概要を理解し、二回目は基本問題を解き、学校の授業で知識を整理しながら定着させる。このような反復学習は、認知心理学でいう「分散学習」や「想起練習」の効果とも一致しており、理解と記憶の定着を大きく高めることが知られている。
また、計算力の向上も極めて重要である。計算が自動化されることで、思考を必要とする問題へ十分な時間を配分できるようになり、高校二年生以降の発展的な学習へ円滑につながっていく。
(3)英語 ― 「先取り」よりも「触れる量」が学力を決める教科 ―
英語も高校課程に入ると語彙数や文章量が急激に増え、多くの生徒が難しさを感じるようになる。しかし、数学とは異なり、英語は先取り学習そのものよりも、「英語に触れる絶対量」を増やすことが学力向上の鍵となる。
第二言語習得研究では、言語能力は大量の言語入力(Input)と実際の言語使用によって形成されることが明らかになっている。文法は英語を理解するための重要な規則であるが、文法だけを学んでも実際の運用能力は十分には育たない。
そのため、この時期には毎日英語を読む習慣を持ち、英語を聞き、可能であれば英会話にも取り組むことが望ましい。映画や動画、音楽などを通して英語に触れる時間を増やすことも有効である。英語は教科である前に「言語」である。言語は使うことによって身に付くものであり、文法問題だけでは十分に習得できない。
したがって、中学三年生・高校一年生では、「英語を勉強する時間」を増やすよりも、「英語に触れている時間」を増やすという発想が重要となる。
教科の特性を理解することが、受験戦略の第一歩である
中学三年生・高校一年生は、大学受験へ向けた「人生の助走期間」である。この時期に重要なのは、すべての教科を同じように勉強することではなく、それぞれの教科の特性に応じた学習を行うことである。
国語は、読書・論述・対話を通して思考力を育てる教科である。数学は、教科書レベルを中心とした先取り学習によって授業を「三回目の学習」とし、基礎を確実に定着させる教科である。英語は、文法だけに偏ることなく、英語に触れる絶対量を増やし、言語として自然に親しむ環境を整える教科である。
この「助走期間」の過ごし方が、高校二年生以降の学力の伸びを大きく左右する。土台を丁寧に築いた生徒ほど、その後の学習は安定し、大きく飛躍する可能性が高まるのである。
参考資料2
第1章 「中だるみ」をどう捉えるか― 「停滞」ではなく「成長の準備期間」という視点 ―
1-1 「中だるみ」という言葉の限界
中高一貫校では、中学三年生から高校一年生にかけての時期を「中だるみ」と表現することが少なくない。この言葉は、中学受験という大きな目標を達成した後、一時的に学習意欲が低下する現象を指すものとして広く用いられている。しかし、この現象を単純に「努力不足」や「怠慢」と結び付けて評価することは、教育学的にも発達心理学的にも適切とは言えない。
子どもの成長は、決して一直線に進むものではない。発達には、停滞しているように見える時期と、大きく飛躍する時期とが存在する。短期的な視点では成長が止まったように映る期間であっても、長期的な視点から振り返れば、その時間が次なる飛躍のための準備期間であったと理解できる例は数多く見られる。
実際、中高一貫校では、高校二年生あるいは高校三年生になってから著しく学力を伸ばす生徒が少なくない。その多くは、中学三年生から高校一年生にかけて、自分自身と向き合い、多様な経験を積み、人間としての土台を着実に形成してきた生徒である。
したがって、「中だるみ」という言葉が持つ否定的な印象だけで子どもを評価することは、その後に開花する可能性を見誤る危険性をはらんでいると言える。
1-2 教育心理学から見る「自然な現象」
教育心理学では、大きな目標を達成した後、一時的に動機づけが低下することは極めて自然な心理反応であると考えられている。
中学受験は、多くの子どもにとって人生で初めて経験する本格的な挑戦である。数年間にわたり努力を積み重ね、その成果として目標を達成した後に心身の緊張が緩むことは、決して異常な現象ではない。むしろ、それは長期間にわたる努力を終えた人間に共通して見られる健全な反応である。
この現象は、スポーツ選手が大きな大会を終えた後に一時的な燃え尽き感を覚えることや、社会人が大規模なプロジェクトを終えた後に疲労感や虚脱感を抱くことと本質的に同じである。
したがって、この時期に必要なのは、「さらに努力しなさい」という精神論ではない。「現在は次なる成長へ向かうための準備期間である」という発達段階への正しい理解である。
保護者がこの心理的変化を自然な発達過程として受け止めることができれば、一時的な学習意欲の変化に過度に一喜一憂することなく、長期的な視点から子どもの成長を支えることが可能となる。
1-3 「助走期間」という新たな視点
この時期は、「中だるみ」と表現するよりも、むしろ**「人生の助走期間」**として捉える方が、その教育的意義をより的確に表している。
飛行機は、大空へ飛び立つ直前に長い滑走路を走る。一見すると、地上を走っているだけで何も変化していないように見える。しかし、その助走が十分であるからこそ、安全かつ力強く大空へ飛び立つことができる。
子どもの成長もまた同様である。
中学三年生から高校一年生という時期は、目に見える成果だけを追い求める時期ではない。自分自身と向き合い、人間関係を築き、多様な経験を重ね、自らの価値観や人生観を形成していく極めて重要な時期である。
この時期に培われる人格、思考力、主体性、自己理解は、高校二年生以降の学力向上を支えるだけではない。大学受験を経て社会へ羽ばたいた後も、自ら考え、自ら判断し、自らの責任で人生を切り拓いていくための基盤となる。
教育とは、「今、何ができるか」を競う営みではない。
子ども一人ひとりが将来どのような人間へ成長し、どのような人生を歩んでいくのかという可能性を信じ、その土台を育む営みである。
その意味において、中学三年生から高校一年生は、人生における最も重要な「助走期間」と位置付けることができる。
1-4 保護者に求められる視点
この時期の保護者に求められるのは、短期的な成績や順位だけによって子どもを評価しない姿勢である。
もちろん、学習習慣を維持し、基礎学力を積み重ねることは重要である。しかし、それ以上に重要なのは、子どもが「どのような人間へ成長しようとしているのか」という長期的な視点を持つことである。
学校行事に主体的に取り組む姿勢、友人との関わりの中で葛藤しながら人間関係を築く経験、部活動で目標に向かって努力を続ける姿、読書や旅行を通して未知の世界に触れる体験──これらは、一見すると受験勉強とは直接関係のない活動のように見えるかもしれない。
しかし、こうした多様な経験こそが、人間としての視野を広げ、価値観を深め、結果として学力や進路選択、さらには人生そのものに大きな影響を及ぼしていく。
保護者に求められるのは、「今、どれだけ勉強しているか」という一点だけに目を向けることではない。
「今、この子は何を学び、何を育み、どのような人間へ成長しようとしているのか。」
この問いを持ち続けることこそが、青年期の子どもを支える最も重要な教育的視点なのである。
Point
- 「中だるみ」は、怠慢ではなく発達過程に見られる自然な現象である。
- 中学三年生・高校一年生は、人格形成が本格化する「人生の助走期間」である。
- 保護者は短期的な成績だけではなく、人間としての成長に目を向けることが重要である。
- 教育の本質は、「今の結果」を評価することではなく、「未来の可能性」を育てることにある。
第2章 青年期は脳が大きく成長する時期― 脳科学・発達心理学から考える ―
2-1 青年期は「脳が完成する時期」ではない
中学三年生から高校一年生にかけては、学力の向上だけでなく、人間としての基盤が大きく形成される時期である。その背景には、青年期特有の脳の発達が深く関わっている。
近年の脳科学研究によれば、人間の脳は高校生の段階で完成しているわけではなく、二十代前半頃まで発達を続けることが明らかになっている。なかでも、思考・判断・計画・自己統制といった高度な認知機能を担う前頭前野は、脳の中でも最後まで成熟を続ける部位である。
この事実は、青年期の子どもの行動を理解する上で極めて重要な示唆を与えている。「分かっているにもかかわらず行動に移せない」「計画を立てても継続できない」「目先の楽しさを優先してしまう」といった姿は、必ずしも意欲不足や甘えだけで説明できるものではない。脳そのものが発達の途上にあり、高度な自己制御能力を形成している過程として理解する必要がある。
したがって、この年代に求められるのは、一方的な叱責や結果のみを求める指導ではない。子どもの発達段階を理解し、自ら考え、試行錯誤を重ねながら成長できる環境を継続的に整えていくことが重要である。
2-2 実行機能が人生を左右する
前頭前野が担う重要な働きの一つに、「実行機能(Executive Function)」がある。実行機能とは、目標を設定し、計画を立て、優先順位を判断し、感情を調整しながら、誘惑に左右されることなく行動を継続し、状況に応じて柔軟に方法を修正する能力を総称した概念である。
学校生活においては、宿題を計画的に進めること、定期試験へ向けて学習を継続すること、部活動と学習を両立させることなど、日常のあらゆる場面で実行機能が働いている。
さらに社会へ出れば、仕事の計画立案や時間管理、人間関係の調整、問題解決、組織の中での意思決定など、実行機能は社会人として生活する上で不可欠な能力となる。
大学受験もまた、単に知識量を競う場ではなく、長期的な目標を設定し、継続的に努力する実行機能を鍛える機会と捉えることができる。教育とは知識を教える営みであると同時に、その知識を現実社会で活用できる行動へと結び付ける力を育てる営みでもある。
2-3 経験が脳を育てる
では、実行機能はどのように育まれるのであろうか。
結論から言えば、実行機能は知識を習得するだけでは十分には発達しない。自ら考え、判断し、失敗し、改善を重ねるという経験の積み重ねによって、初めて実践的な能力として形成される。
例えば、文化祭で仲間と役割分担を考える経験、体育大会で責任を果たす経験、部活動で目標に向かって努力を継続する経験、友人との意見の違いを乗り越える経験、家庭の中で役割を担う経験など、日常生活における一つひとつの経験が実行機能を育てている。
その意味において、「勉強だけに集中させること」が常に最良の教育とは限らない。学校生活や家庭生活の中で経験する挑戦や失敗、協働や葛藤もまた、将来の学力や社会性を支える重要な教育資源なのである。
2-4 青年期最大の課題は「自分を知ること」
発達心理学者エリク・エリクソンは、青年期最大の発達課題を「アイデンティティの確立」と位置付けている。
アイデンティティとは、「自分とはどのような人間であるのか」という自己理解である。何に価値を見いだし、何を得意とし、何を大切にして生きていきたいのかという問いに向き合うことが、青年期における最も重要な課題となる。
この問いに唯一の正解は存在しない。だからこそ、多様な経験が必要となる。
読書を通して異なる価値観に触れること、旅行を通して新しい文化や社会を知ること、芸術に感動すること、スポーツや学校行事に取り組むこと、ボランティア活動を通して社会とのつながりを実感することなど、さまざまな経験を積み重ねることによって、自己理解は少しずつ深まっていく。
経験とは、知識を増やすためだけのものではない。「自分とは何者であるのか」を知り、「どのように生きたいのか」を考えるための重要な過程なのである。
2-5 青年期は可能性が最も大きい時期である
教育現場では、現在の成績や学力だけで子どもを評価してしまうことが少なくない。しかし、発達という視点から見れば、それは極めて限定的な評価に過ぎない。
青年期は、脳も人格も価値観も大きく変化し続ける時期である。現在の学力が、そのまま将来の能力や可能性を決定するわけではない。実際、高校二年生や高校三年生になって大きく成長する生徒は少なくなく、その背景には、この時期に積み重ねた経験や人格形成が存在している。
教育とは、「今、何ができるか」を評価する営みではない。
子ども一人ひとりが将来どのような人間へ成長していくのか、その可能性を信じ、育てる営みである。
だからこそ、保護者には短期的な成績や結果だけに目を向けるのではなく、長期的な発達という視点から子どもの成長を見守る姿勢が求められる。
Point
- 青年期の脳は二十代前半頃まで発達を続け、とりわけ前頭前野は思考・判断・自己統制を担う重要な部位として成熟していく。
- 実行機能は、学力のみならず、将来の社会生活や職業人生を支える中核的な能力である。
- 実行機能は知識だけでは育たず、多様な経験や試行錯誤を通して形成される。
- 青年期最大の発達課題は「アイデンティティの確立」であり、多様な経験を通して自己理解が深まっていく。
- 教育とは現在の能力を評価することではなく、未来の可能性を信じ、その可能性を育む営みである。
第3章 経験が人を育てる― 人間形成を促す経験の教育的価値 ―
3-1 知識だけでは人は成長しない
学校教育において、知識や学力の習得は重要な教育目標の一つである。しかし、人間としての成長は、知識の蓄積だけによって達成されるものではない。知識は「知る力」を育てるが、「生きる力」は現実社会における多様な経験を通して培われる。
近年の教育学では、「経験を通した学び(Experiential Learning)」の重要性が広く認識されている。学習によって得た知識を現実の場面で活用し、試行錯誤を繰り返しながら課題を解決していく過程こそが、思考力や判断力、主体性、さらには社会性を育てると考えられている。
青年期は、知識を「理解」から「実践」へと発展させる時期である。同時に、多様な経験を通して人格形成が本格化する時期でもある。したがって、この年代の教育は、学力向上だけでなく、経験を通じて人間的成長を促すという視点を持つことが極めて重要である。
3-2 経験が実行機能を育てる
第2章で述べたように、青年期には実行機能が著しく発達する。しかし、この能力は教室で知識を学ぶだけでは十分に育成されない。
文化祭で仲間と協力しながら企画を成功させる経験、体育大会で自らの役割を果たす経験、部活動で目標達成に向けて努力を継続する経験、委員会活動で責任を担う経験、家庭の中で役割を果たす経験など、日常生活のあらゆる場面が実行機能を育てる教育の場となる。
こうした経験の中で、子どもたちは「考える」「判断する」「協力する」「失敗を振り返る」「改善する」といった一連の過程を繰り返す。その積み重ねが、計画性や自己統制力、問題解決能力といった実行機能を着実に成熟させていく。
したがって、学校行事や課外活動は単なる思い出づくりではない。社会に出てから求められる実践的な能力を育成する、極めて重要な教育活動なのである。
3-3 失敗は人格形成の重要な教材である
保護者であれば、子どもにできるだけ失敗を経験させたくないと考えるのは自然なことである。しかし、教育という視点から見れば、適切な失敗経験は人格形成に欠かすことのできない教育資源である。
挑戦しなければ失敗はしない。しかし、挑戦しなければ成長もまた存在しない。
心理学では、成長を左右するのは失敗そのものではなく、「失敗をどのように受け止め、その経験を次の行動へ結び付けるか」であると考えられている。
失敗を経験した子どもは、その原因を分析し、改善策を考え、新たな方法で再挑戦する。この一連の過程を繰り返すことによって、問題解決能力や自己調整能力、そしてレジリエンスが育まれていく。
教育とは、失敗を回避させることではない。失敗を成長へと転換する力を育てることである。
3-4 多様な経験が自己理解を深める
青年期は、「自分とは何者であるのか」という問いに本格的に向き合う時期である。しかし、その問いに対する答えは教科書の中には存在しない。
自己理解は、多様な経験を積み重ねることによって少しずつ形成されていく。
読書を通して新しい価値観に触れること、旅行を通して異文化を知ること、芸術作品に感動すること、スポーツを通して仲間と協力すること、ボランティア活動を通して社会とのつながりを実感することなど、一つひとつの経験が自己理解を深める契機となる。
こうした経験を積み重ねる中で、「自分は何に興味を持つのか」「何に喜びを感じるのか」「どのような人生を歩みたいのか」という人生の根幹に関わる問いへの答えが少しずつ形づくられていく。
経験とは知識を増やすためだけのものではない。人生の方向性を見いだし、自分自身の価値観を形成するための重要な教育資源なのである。
3-5 経験が人生の選択肢を広げる
経験の豊かさは、そのまま人生の選択肢の豊かさにつながる。
経験したことのない職業に憧れを抱くことは難しい。経験したことのない世界に関心を持つことも容易ではない。
だからこそ、青年期にはできる限り多くの経験を積むことが望ましい。
読書も経験である。旅行も経験である。学校行事も経験である。そして、人との出会いもまた貴重な経験である。
一見すると受験勉強とは直接関係がないように思われる経験であっても、長期的に見れば、進路選択や職業選択、さらには人生観そのものの形成に大きな影響を及ぼす。
経験とは、現在を豊かにするだけではない。未来の可能性と人生の選択肢を広げるための、最も価値ある投資なのである。
3-6 保護者に求められる役割
経験を積み重ねる主体は子ども自身である。しかし、その経験の機会を提供し、支える存在は、多くの場合、家庭である。
保護者に求められるのは、結果だけを求めることではない。子どもが安心して挑戦し、多様な経験を積むことのできる環境を整えることである。
旅行へ出掛けること、本を薦めること、美術館や博物館を訪れること、地域活動へ参加すること、学校行事を応援すること、友人との交流を大切にすること──こうした日常の積み重ねが、子どもの人格形成を支えている。
家庭は、子どもにとって最初の教育の場である。
だからこそ、保護者には「何を教えるか」という視点だけではなく、「どのような経験を与えるか」という視点を持つことが求められる。その経験の一つひとつが、将来、自ら考え、自ら判断し、自らの人生を切り拓いていく力へとつながっていくのである。
Point
- 人間の成長は、知識の習得だけでなく、多様な経験を通して促進される。
- 実行機能は、試行錯誤や協働、挑戦といった経験の積み重ねによって成熟していく。
- 適切な失敗経験は、問題解決能力やレジリエンスを育む重要な教育資源である。
- 多様な経験は、自己理解を深め、アイデンティティの形成を促進する。
- 経験の豊かさは、将来の進路や人生の選択肢を広げる基盤となる。
- 保護者に求められる最大の役割は、子どもが安心して挑戦し、多様な経験を積むことのできる環境を整えることである。
第4章 青年期に育成すべき六つの力― 非認知能力が人生を支える ―
4-1 学力だけでは人生は築けない
大学受験において学力は極めて重要な要素である。しかし、長い人生という視点に立てば、学力だけで社会的成功や人生の充実を説明することはできない。
近年の教育学や心理学では、知識や学力といった認知能力だけでなく、「非認知能力(Non-Cognitive Skills)」の重要性が数多く報告されている。非認知能力とは、粘り強さ、主体性、協調性、自制心、自己効力感など、数値によって測定することが難しい能力を指す。
これらの能力は、大学受験における成果だけでなく、大学生活、職業人生、人間関係、さらには人生の幸福度にも深く関わることが明らかになっている。知識や技能が「何を知っているか」を示す能力であるとすれば、非認知能力は「その知識をどのように活用し、自らの人生を切り拓いていくか」を支える能力である。
青年期に育成すべき七つの力― 非認知能力が人生を支える ―
青年期は、認知能力だけでなく、人格形成や社会性を支える非認知能力(Non-Cognitive Skills)が著しく発達する時期である。近年の教育学や発達心理学では、非認知能力は学業成績だけでなく、大学生活、職業人生、人間関係、さらには人生の幸福度にも深く関わることが明らかになっている。
本章では、その中でも人格形成の基盤となる七つの力について考察する。
第一の力 レジリエンス
― 困難を成長へ転換する力 ―
人生において、失敗や挫折を完全に避けることはできない。重要なのは、失敗を経験しないことではなく、その経験から立ち直り、次の成長へ結び付けることである。
心理学では、この回復力をレジリエンスという。
レジリエンスの高い人は、失敗を人格そのものの否定とは捉えない。「今回はうまくいかなかった」という事実を冷静に受け止め、その原因を分析し、改善策を考え、新たな挑戦へとつなげていく。
一方、レジリエンスの低い人は、失敗を「自分には能力がない」という自己否定へと結び付けやすい。その結果、挑戦そのものを避けるようになり、成長の機会を失ってしまう。
大学受験も社会生活も、成功よりも失敗を経験する場面の方が多い。だからこそ、青年期には失敗を恐れるのではなく、失敗から立ち直る経験そのものを積み重ねることが重要なのである。
第二の力 人の話を聞く力
― 学び続ける姿勢を育てる ―
長期にわたり成長し続ける人には、一つの共通した特徴がある。それは、他者から学ぶ姿勢を持ち続けていることである。
教師から学ぶ。保護者から学ぶ。友人や先輩から学ぶ。本から学ぶ。そして社会そのものから学ぶ。
つまり、学ぶ対象を限定しないのである。
現代社会では、膨大な情報を容易に得ることができる。しかし、本当に重要なのは情報量ではない。信頼できる助言を見極め、それを行動へ結び付ける能力である。
ここでいう素直さとは、他者の言葉を無条件に受け入れることではない。「自分とは異なる考え方にも学ぶ価値があるかもしれない」と考えられる柔軟性である。この姿勢こそが、生涯にわたり成長し続ける人に共通する資質なのである。
第三の力 決断する力
― 主体的な人生を築く力 ―
人生は、日々の決断の積み重ねによって形づくられる。
高校を選ぶ。大学を選ぶ。職業を選ぶ。そして、どのような人生を歩むかを選ぶ。その一つひとつの意思決定が、未来を方向付けていく。
決断力は知識だけでは身に付かない。実際に選択し、その結果を受け止め、ときには失敗を経験しながら修正を重ねる過程を通して育まれる能力である。
教育とは、正解を与えることではない。子ども自身が考え、自ら答えを見いだす力を育てる営みでもある。
主体的な決断を積み重ねることによって、人は自らの人生に責任を持ち、自立した人格を形成していくのである。
第四の力 経験する力
― 人生の選択肢を広げる力 ―
経験は、人格形成における最も重要な教材である。
読書、旅行、学校行事、部活動、ボランティア活動、芸術鑑賞、スポーツ、そして人との出会い。その一つひとつの経験が、新たな価値観との出会いを生み、人生の可能性を広げていく。
人は、経験したことのない世界に強い関心を抱くことは難しい。また、経験したことのない職業や生き方を、自らの目標として描くことも容易ではない。
だからこそ、青年期にはできる限り多くの経験を積むことが重要である。
経験とは、現在を豊かにするためだけではない。将来の進路や職業、さらには人生そのものの選択肢を広げるための、最も価値ある投資なのである。
第五の力 自分を知る力
― 人生の軸を形成する力 ―
発達心理学では、青年期最大の課題は「アイデンティティの確立」であるとされている。
自己理解とは、自分の能力や性格を知ることだけではない。何に価値を見いだすのか、何に喜びを感じるのか、どのような人生を歩みたいのかという問いに向き合うことである。
こうした問いに唯一の正解は存在しない。
多様な経験を積み重ね、自ら考え続ける中で、その答えは少しずつ形づくられていく。
自己理解が深まるほど、大学や職業を偏差値や社会的評価だけで選ぶのではなく、「自分らしい生き方」という視点から主体的に選択できるようになる。
人生の軸とは、他者から与えられるものではなく、自らの経験の中で育まれていくものである。
第六の力 流されない力
― 自らの価値観に基づいて生きる力 ―
現代社会では、SNSや動画配信サービスなどを通して膨大な情報が絶え間なく流れている。「みんながそうしている」「ランキング上位だから」といった他者基準の価値観にも日常的に触れる時代である。
しかし、主体的に生きる人とは、他者の意見を排除する人ではない。多様な価値観に耳を傾けながらも、最終的には自らの価値観に基づいて判断し、責任を持って行動できる人である。
流されない力とは頑固さではない。主体性である。
そして主体性は、豊かな経験と深い自己理解の積み重ねによって形成される。青年期における多様な経験は、「自分らしく生きる力」の土台となるのである。
第七の力 分ける力
― 理解し、行動するための思考力 ―
青年期になると、学習内容、人間関係、進路、将来への不安など、一度に考えなければならない課題が急激に増加する。しかし、人間の脳は複雑な情報をそのまま処理することを得意としていない。認知心理学では、人間の思考には処理できる情報量に限界があり、情報を整理・構造化することによって初めて理解が成立すると考えられている。
そのため、理解できないのは、能力が不足しているからではなく、「分けること」ができていないからである。
数学の問題が解けないのは、条件を整理できていないからである。
英語が読めないのは、文の構造を適切に区切ることができていないからである。
国語が難しいのは、論理構造を整理できていないからである。
さらに、この力は学習だけではない。
行動できないのも、「分けること」ができていないからである。
「受験勉強を頑張る」という大きな目標だけでは、人は行動できない。
今日覚える英単語二十語。
数学を三十分。
机の上を片付ける。
このように、課題を小さな行動へ分解できたとき、人は初めて行動を開始できる。
分ける力とは、情報を整理する力であり、本質を見抜く力であり、理解する力であり、行動する力でもある。
学習、受験、仕事、人間関係など、あらゆる問題解決の出発点となる思考力なのである。
七つの力は相互に支え合う
ここまで述べてきた七つの力は、それぞれ独立して存在するものではない。
困難を乗り越える経験はレジリエンスを育て、人の話を聞く姿勢は視野を広げる。主体的な決断は自立心を育み、多様な経験は自己理解を深める。そして、自己理解が深まることによって、自らの価値観に基づいて行動できる主体性が形成される。
さらに、それら六つの力を現実の行動へ結び付けるためには、「分ける力」が不可欠である。問題を整理できるから理解できる。理解できるから行動できる。行動できるから成長できる。
このように、七つの力は相互に関連しながら人格を形成する「人間形成の中核的能力」であり、青年期はその基礎を築く最も重要な発達段階である。したがって、この時期の教育は学力向上だけを目的とするのではなく、これら七つの力を意識的に育成するという視点を持つことが求められる。
Point
- 学力だけでは、人生の成功や幸福を十分に説明することはできない。
- 非認知能力は、大学受験だけでなく、大学生活、社会生活、職業人生、さらには人生の幸福度にも深く関わる。
- 青年期は、レジリエンス・人の話を聞く力・決断する力・経験する力・自分を知る力・流されない力・分ける力という七つの能力を育成する最適な時期である。
- 分ける力は、理解する力であり、行動する力であり、問題解決の出発点となる思考力である。
- 七つの力は相互に作用しながら人格を形成し、生涯にわたる人間的成長の基盤となる。
第5章は、この冊子の実践編です。
第4章では「育てるべき六つの力」を述べました。
では、その力を身に付けている子どもには、どのような共通点があるのでしょうか。
ここでは、私自身の長年の教育実践と教育心理学の知見を踏まえ、成長し続ける子どもに共通する六つの習慣について述べます。
第5章 成長し続ける子どもに共通する習慣― 学び続ける人は何が違うのか ―
5-1 素直さを持ち続ける― 成長の出発点は「受け入れる力」にある ―
長年にわたり多くの生徒を指導してきた教育現場では、継続的に成長する子どもたちに共通する特徴が見られる。その中でも最も顕著なのが、「素直さ」である。
ここでいう素直さとは、他者の意見を無条件に受け入れる従順さではない。自分とは異なる考え方や助言に耳を傾け、「まずは一度試してみよう」と考えられる柔軟性を指す。
人は、自分一人の経験だけで成長することはできない。他者の知識や経験を積極的に取り入れることによって、自分だけでは気付くことのできなかった視点や価値観を獲得することができる。
反対に、「自分の考えが常に正しい」という姿勢に固執すると、新たな学びの機会そのものを失ってしまう。
成長し続ける子どもほど、学ぶ姿勢を失わない。そして、その学びの原点にあるのが、素直に受け入れる姿勢なのである。
5-2 助言を行動へ変える― 「知ること」ではなく「実践すること」に価値がある ―
優れた成果を上げる子どもは、教師や保護者の助言によく耳を傾ける。しかし、本当に優れている点は、助言を「聞くこと」ではない。それを実際の行動へ移すことである。
教育現場では、「なるほど、分かりました」と答える生徒は少なくない。しかし、その助言を翌日から実践できる生徒は決して多くない。
知識と成長の間には、「実践」という重要な橋が存在する。
助言を受け入れ、実際に試し、その結果を振り返り、必要に応じて改善する。この一連の過程を繰り返すことによって、知識は初めて自分自身の力へと変わっていく。
成長する子どもは、知識を蓄積するだけではなく、知識を行動へと転換する習慣を身に付けているのである。
5-3 言い訳ではなく改善を考える― 成長を支えるのは「改善志向」である ―
失敗に直面したとき、人の受け止め方は大きく二つに分かれる。
一つは、「問題が難しかった」「先生の説明が分かりにくかった」「運が悪かった」というように、原因を自分の外側へ求める考え方である。
もう一つは、「自分には何が足りなかったのか」「次はどのように改善すればよいのか」と、自らの行動を振り返る姿勢である。
もちろん、すべての失敗の原因が本人にあるとは限らない。しかし、自分が変えることのできるものは、自分自身の行動だけである。
成長し続ける子どもは、失敗を責任追及の材料としてではなく、改善のための貴重な情報として活用している。
重要なのは、自分を責めることではない。自らの行動を見直し、より良い方法を探し続ける姿勢こそが、継続的な成長を支えているのである。
5-4 他人ではなく昨日の自分と比べる― 本当の競争相手は「過去の自分」である ―
現代の子どもたちは、常に他者との比較の中で生活している。
定期試験の順位、模擬試験の偏差値、SNSの評価、各種ランキングなど、他者と比較する機会は数え切れないほど存在する。
しかし、本当に成長する子どもは、その比較に振り回されない。
競争相手は、隣の友人ではない。
昨日までの自分である。
昨日より一つ多く単語を覚えた。昨日より少し長く集中できた。昨日より一歩前へ進むことができた。
このような小さな前進の積み重ねが、やがて大きな成長へとつながっていく。
他者との比較は、優越感や劣等感を生みやすい。一方、自分自身との比較は、着実な成長を促す原動力となる。
5-5 自分の軸を持つ― 他者の期待ではなく、自らの価値観で生きる ―
青年期は、多様な価値観に触れる時期である。
家庭、学校、友人、社会など、さまざまな価値観と出会う中で、子どもは少しずつ自らの人生観を形成していく。
重要なのは、それらを受け入れながらも、「自分は何を大切にして生きたいのか」という問いに向き合うことである。
大学を選ぶときも、職業を選ぶときも、人生の大きな選択をするときも、最後に判断の基準となるのは、自分自身の価値観である。
自分の軸を持つ子どもは、一時的な流行や周囲の評価に過度に左右されることなく、自らの意思で主体的な人生を歩むことができる。
5-6 感謝する心を持つ― 謙虚さが人間的成長を支える ―
成長し続ける子どもには、もう一つ共通した特徴がある。
それは、周囲への感謝を忘れないことである。
保護者への感謝、教師への感謝、友人への感謝、そして自分を支えてくれるすべての人への感謝である。
感謝できる人は、自らの成長が決して一人の力だけで成し遂げられたものではないことを理解している。だからこそ、常に学ぶ姿勢を持ち続けることができる。
反対に、「すべて自分の力で成し遂げた」と考え始めたとき、人は成長を止めてしまう。
謙虚さとは、自分を過小評価することではない。周囲の支えや環境の価値を正しく認識する姿勢である。
感謝の心は、人間関係を豊かにし、生涯にわたる学びと成長を支える重要な土台となる。
六つの習慣は相互に結び付いている
ここまで述べてきた六つの習慣は、それぞれ独立したものではない。素直さがあるからこそ助言を受け入れることができ、助言を実践へ移すことによって改善が生まれる。改善を積み重ねることで自信が育ち、自分自身との比較を続けることによって主体性が形成される。そして、自らの価値観を持つことによって周囲に流されない人格が育まれ、その成長を支えてくれた人々への感謝がさらなる学びを生み出していく。
このように、六つの習慣は互いに密接に関連しながら、人間としての成熟を支えている。能力は生まれ持った資質だけで決まるものではない。日々どのような習慣を積み重ねるかによって、人は大きく成長していくのである。
Point
- 長期的に成長する子どもは、能力よりも「習慣」に優れている。
- 素直さとは、他者の助言を柔軟に受け止め、学びへと変える姿勢である。
- 知識は、実践を通して初めて自分自身の力となる。
- 他者との比較ではなく、昨日の自分との比較が持続的な成長を促す
参考資料3
家庭の「七ない」
― 信頼関係が子どもの成長を支える ―
家庭教育において最も重要な役割は、学習を管理することではない。子どもが安心して自分の悩みや不安を打ち明けることのできる「安全基地(Secure Base)」となることである。発達心理学では、安心して戻ることのできる居場所を持つ子どもほど、新しい課題へ積極的に挑戦し、失敗から立ち直る力(レジリエンス)を身に付けやすいことが示されている。また、教育心理学においても、主体的な学習行動は、安心して相談できる人間関係の中で促進されることが明らかになっている。
中学三年生から高校一年生は、学力だけでなく人格や価値観が大きく形成される青年期前半にあたる。この時期は、自立へ向かう一方で、不安や葛藤も大きくなる発達段階である。そのため、保護者には知識を与えること以上に、子どもが安心して相談できる環境を整えることが求められる。
長年の教育実践を通して実感することは、「相談できる子どもは強い」という事実である。現代の大学入試は学力だけではなく、推薦入試の活用、受験科目の選択、志望校の決定、学習開始時期など、多くの情報を適切に判断する能力が求められる。子どもだけでは情報に翻弄され、保護者だけでは主体性が育たない。家庭・学校・塾が適切に連携しながら、子ども自身が主体的に判断できる環境を整えることが重要となる。
その基盤となるのが、「家庭の七ない」である。
(1)責めない
失敗した原因を追及することは必要であるが、責任を追及することとは異なる。心理学では、失敗によって人格まで否定されたと感じると、人は防衛的になり、自分の失敗や悩みを隠す傾向が強まることが知られている。その結果、本来必要である相談行動が減少し、問題を一人で抱え込むようになる。失敗は責める対象ではなく、次の改善につなげる学習機会として位置付けることが重要である。
(2)比べない
青年期は他者との比較が最も増える時期である。学校では順位や偏差値が示され、日常生活ではSNSなどを通して他者の成果が絶えず目に入る。しかし、社会的比較が過度になると、自己肯定感や学習意欲が低下することが教育心理学で報告されている。一方、自分自身の過去と比較する姿勢は、自己効力感を高め、継続的な努力を促進する。比較の対象は他者ではなく、「昨日までの自分」であるという視点が重要である。
(3)追い込まない
青年期の脳は発達途上にあり、思考や判断、自己統制を担う前頭前野は二十代前半頃まで成熟を続ける。このため、過度なプレッシャーや不安は思考力や判断力を低下させ、自発的な行動を阻害することが知られている。短期的には効果があるように見える強い叱責や過度な期待も、長期的には主体性や学習意欲を低下させる危険性がある。安心して挑戦できる環境を整えることが、主体的な学習を促す前提条件となる。
(4)見放さない
子どもの人格形成において重要なのは、成功体験だけではない。失敗や挫折を経験したときに、自分を信じ続けてくれる存在がいるという安心感である。発達心理学では、このような安定した愛着関係が自己効力感やレジリエンスの形成に大きく寄与すると考えられている。見放さないとは、結果を問わず甘やかすことではない。困難な状況においても子どもの可能性を信じ、再挑戦を支える姿勢を維持することである。
(5)偉そうにしない
青年期は、保護者との関係が「指示される関係」から「対話する関係」へ移行する時期でもある。一方的な命令や権威による指導は、子どもの主体性を育みにくい。自己決定理論では、人は自ら考え、自ら選択しているという感覚を持つことで、内発的動機づけが高まるとされている。そのため、保護者には答えを押し付けることよりも、子どもの考えに耳を傾け、共に考える姿勢が求められる。
(6)かっこつけない
家庭における信頼関係は、完璧な親によって築かれるものではない。家族心理学では、適度な自己開示は親子間の心理的距離を縮め、本音を共有しやすい関係を形成することが知られている。保護者が失敗や悩みを率直に語り、分からないことを認める姿勢は、「失敗してもよい」「助けを求めてもよい」という安心感を子どもへ与える。親が完璧である必要はなく、人間らしい姿を見せることが、むしろ健全な親子関係の形成につながる。
(7)決めつけない
青年期は、人間が最も大きく変化し、成長する時期である。教育心理学では、保護者や教師から繰り返し与えられる評価は、子どもの自己概念や将来への期待に大きな影響を及ぼすことが知られている。「どうせ続かない」「向いていない」といった固定的な評価は、子どもの可能性を狭める危険性がある。一方、「人は成長する存在である」という前提に立ち、変化の可能性を信じる姿勢は、新たな挑戦への意欲を育てる。青年期に必要なのは現在の能力を評価することではなく、未来の可能性を信じ続けることである。
七つの姿勢が信頼関係を育てる
「責めない・比べない・追い込まない・見放さない・偉そうにしない・かっこつけない・決めつけない」という七つの姿勢は、いずれも子どもの主体性と信頼関係を育てるための原則である。これらに共通する目的は、子どもを管理することではなく、安心して相談できる環境を整えることにある。
家庭とは、子どもを評価する場所ではない。困難に直面したときに安心して戻ることのできる「安全基地」であり、人生で最初の「相談室」である。そのような家庭環境の中で育った子どもは、他者の助言を適切に受け入れ、自ら考え、自ら決断しながら成長していく。
**相談できる子どもは強い。**その強さは、生まれ持った能力ではなく、日々の家庭環境の中で育まれていくものである。